泌尿生殖器外科

1.子宮蓄膿症

 子宮に細菌が混入して膿が貯留する病気で、この状態に気づかれずにいると命に係わります。この病気は、救命のため卵巣子宮全摘手術を行うのが原則です。当院では比較的多く行う手術で、ほとんどの場合、手術の翌日もしくは翌々日まで点滴治療をおこなったあと退院されています。ただし、来院が遅れると敗血症からDIC、多臓器不全に至り、救命が難しくなります。中高齢の犬で、発情出血後1~2ヶ月間で発症することが多い病気です。避妊手術をされていない中高齢の雌犬の具合が悪い場合は、早めに来院しましょう。

 また、エコー所見上よく似ている病気に、高齢犬で犬ドック等で発見される子宮粘液水腫があります。子宮粘液水腫は、患者様の状態により、手術をせずに経過観察を行うこともあります。

2.尿閉解除

 尿道が閉塞して、尿が出ない状態を尿閉(にょうへい)といい、そのままでは死に至ります。飲水量が低下する冬に多い病気です。右の写真は、雄猫の尿道を閉塞させていたストルバイト結晶です。尿中に結晶を多く含む状態において、雄猫のペニスの根元付近の細い尿道によく詰まります。

 また、左の写真のように小さい結石で尿閉になることもあります。いずれにしても尿閉になると時間単位で急性腎不全(尿毒症)になり、さらには高カリウム血症で心不全に至ります。尿閉は当院でもよく遭遇する救急疾患で、血液電解質を調整しながら、尿道粘膜に損傷を与えないように閉塞物を除いて尿路を確保(尿閉解除)します。尿閉の状態が長いと、膀胱アトニーになって膀胱が収縮できなくなるので尿道カテーテルを留置したり、腎不全の治療のために静脈点滴が必要になります。

 再発予防のためには、尿道の炎症を抑え、療養食を給与することが重要です。

 また、尿閉は雄犬でも遭遇しますが、ほとんどが結晶ではなく結石が栓子となっています。雌犬・雌猫は尿道が太いので、結石で閉塞することは極めてまれです。

3.会陰尿道造瘻術

 猫下部尿路疾患が慢性化して尿道狭窄を起こしたり、療養食のみを食べていても尿閉を繰り返す症例などに適用することがあり、当院では泌尿器系の手術の中では比較的実施件数が多いものです。狭窄した尿道を切除して尿道にかかる緊張を解除した後に陰嚢がある位置に径の太い骨盤内尿道を開口させる手術です。簡単に言うと「雄猫のペニスを除いて、雌猫の陰部に似た形にする手術」のことです。左写真は術後2週目の患部です。

4.結石摘出(膀胱切開)術

 膀胱を切開する理由として最も多いのが結石の摘出です。写真は、「美祢の石灰石」ではなく、ストルバイトという種類の膀胱結石です。ストルバイトは療養食で溶解することが可能ですが、このように膀胱にジャラジャラとたくさん詰まっている症例や、溶けない結石は、手術で摘出することが第一選択であり、術後は再発予防のために療養食を召し上がっていただきます。

 左の写真は、手術で摘出したケイ酸(シリカ)結石というものです。この石も溶かすことはできませんし、このように金平糖の形をとることが多いので、摘出しないと膀胱を刺激するのでずっと痛みを感じます。

5.尿管切開術

 食欲不振・元気消失を主訴に来院されたわんちゃんを腹部エコー検査すると片側尿管に結石(右写真:シュウ酸カルシウム結石)が見つかりました。尿管結石の多くがこのタイプで、腎結石が尿管に流れ、閉塞したものと考えられます。

 人のように体外衝撃波結石破砕治療を実施できる動物診療施設はありませんし、尿管拡張薬では排出が望めない状態だと、左写真のように尿管切開を行い結石を摘出します。発症後早期に手術できた場合は、拡張した腎盂も術後1週間ほどでかなり縮小します。時間が経過すると水腎症となり、片腎が機能しなくなります。また、化膿すると腎膿瘍となり命の危険が高まります。

6.腎臓摘出術

 リンパ腫以外の腎臓腫瘍や腎膿瘍などで、片側の腎臓のみが侵されている場合は、手術で摘出するようにしています。写真は、食欲不振を主訴に来院され、CRPが増加していたシー・ズーさんのレントゲン写真です。尿管結石性閉塞および腎膿瘍(水腎症に細菌感染がおこり膿が貯留したものと思われます)のため、左腎および結石を含む左尿管を摘出し、抗生剤等で治療しました。

7.外傷

 交通事故で救急外来される猫さんに骨盤骨折や膀胱破裂などが多く認められます。右の写真は、膀胱破裂した猫さんの術中写真で、この子は他に腹壁ヘルニア、骨盤骨折なども併発していました。膀胱破裂と腹壁ヘルニアの軟部外科手術でまずは救命したあと、整形外科手術を後日実施しました。

8.帝王切開

 「犬は安産」という言葉があてはまるのは大型犬や日本犬ぐらいで、小型犬は概ね”難産”だとご認識下さい。また、人間の出産のように、獣医がわんちゃんの自然分娩の介助をすることはほとんどありませんので(自然分娩はご自宅)、病院内での出産のほとんとは帝王切開となります。

 なお、当院で帝王切開を行うのは、妊娠経過を診させて頂いている再診患者様、もしくは契約ブリーダー様のみです。初診患者様の緊急帝王切開には対応しておりませんので、ご了承下さい。

 また、帝王切開のときの麻酔方法をよく質問されるので少し詳しく記載しておきます。当院では、アルファキサロンとイソフルランによる浅い全身麻酔とブピバカインによる局所麻酔とを併用しています。アルファキサロンで麻酔導入することで、従来用いられていたプロポフォールよりも胎子への麻酔の影響がかなり軽減され、スリーピングベビーがほとんどみられなくなりました。新しい麻酔薬の登場でより安全に帝王切開が可能になったことや母体の苦痛の軽減のため、局所麻酔のみでの帝王切開のリクエストはお受けしておりませんのでご了承ください。

SFTS感染症にご注意!

 宇部市内と山陽小野田市内でSFTSに感染した猫が確認されています。SFTSはマダニから直接感染するだけではなく、SFTSを発症した猫から人が感染発症することがあります。猫は屋内飼育されることをお勧めします。

最終更新日

2024年4月17